労災保険の通勤災害が認められるか否か
労働者災害補償保険(以下「労災保険」)は昭和22年に施行され、通勤途上における災害は業務外とされ、労災保険の対象となっていませんでした。しかし、昭和48年に「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」については、「通勤災害」として別の認定基準を設け労災保険の給付対象とされました。
通勤災害とは
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害、死亡等をいいます。
この場合の「通勤」とは、就業に関し、次の①から③を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものは除かれます。
①住居と就業の場所との間の往復
②就業の場所から他の就業の場所への移動
③住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
(単身赴任先の住居と帰省先の住居との間の移動など)
原則として、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはなりません
「通勤」の留意点
「就業に関し」とは
通勤は、移動行為が「業務に就く」または「終えた」ことにより行われるものであることが必要です。したがって、被災当日に就業することとなっていたこと、また現実に就業していたことが要件で、遅刻やラッシュを避けるための早出など、通常の出勤時刻と時間的にある程度の前後があっても通勤と認められます。
「住居」とは
労働者が居住して日常生活を営む家屋等で、就業のための拠点となる場所をいいます。したがって就業の必要上、家族と別居し就業場所近くのアパート等で生活していれば、そこが住居となります。また、自然災害や交通ストライキなどで一時的にホテル等へ宿泊するときは、そのホテルが住居とされます。
「就業の場所」とは
業務を開始し、または終了する会社・工場をいいます。外勤業務に従事する労働者で、特定区域内での業務を常態とする場合は、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所とします。ただし、外勤業務でない労働者の直行直帰中の災害は、業務災害とされます。
「就業の場所から他の就業の場所への移動」とは
複数のパートのかけ持ちなど、複数の事業場で就業している労働者が、一つ目の就業の場所での勤務終了後に、次の就業の場所へ向かう場合の移動をいいます。
この場合、移動先の就業に向かう移動であることから、移動先の事業場の労災保険が適用されます。
「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」とは
転勤や事業場移転等で通勤が困難(片道60キロメートル以上等)となり住居を移転した場合で、転任の直前の住居に居住している配偶者と別居することとなったものの居住間の移動をいいます。
また、就業中の配偶者、在学中の子、要介護状態の父母等などを残して別居した場合をいいます。
「合理的な経路」とは
労働者が会社へ届け出ている通勤経路が一般的ですが、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あっても合理的な経路となります。
なお、工事等にともなう迂回経路や共働きの労働者が子どもを託児所などに預けるための経路も合理的な経路となります。
「合理的な方法」とは
労働者が通常用いる交通手段(電車、バス、自動車、自転車等)をいいますが、当日のみ利用した自転車通勤も合理的な経路の往復であれば含まれます。
通勤の逸脱と中断
「移動の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは
通勤の途中で逸脱又は中断があるとその後は原則として通勤とはなりません。
「逸脱」とは、通勤の途中で就業や通勤に関係がない目的で合理的な経路を外れることをいい、「中断」とは、通勤経路上で通勤と関係ない行為を行うことをいいます。
たとえば、飲食店での飲酒、映画鑑賞、喫茶店での友達との歓談などが該当します。
逸脱・中断の例外
しかし、公衆トイレの利用や経路上の店で雑誌や飲料を購入する場合などの「ささいな行為」は、逸脱、中断とはなりません。
また、通勤途中の逸脱や中断が「日常生活上必要な行為であって、やむを得ない事由により最小限度の範囲で行う」場合には、逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に戻った後は再び通勤とされます。
なお、日常生活上必要な行為には、次のようなものがあります。
①日用品の購入その他これに準ずる行為
(美容院の利用、惣菜の購入、独身者の飲食店での食事など)
②職業訓練、学校教育等で職業能力の開発となる行為
③選挙権の行使
④病院等での診察又は治療を受ける行為
⑤要介護状態にある配偶者・子などの介護
(継続・反復が要件)
通勤災害が認められない事例
通勤途中に災害に逢い、病気やケガを負った場合は条件を満たせば通勤災害として認められるのが原則ですが、残念ながら認められなかった事例もありますので注意が必要です。
①日用品等購入のために立ち寄っていたスーパー、病院の窓口やクリーニング店の受付などで被災した場合。
⇒日用品等を買っている間、病院の窓口やクリーニング店の受付にいる間は通勤中ではないのです。立ち寄り中に転んでケガをしても通勤災害とはなりません。
②奥さんが自宅にいるのに、帰宅途中に食事をしたのち災害にあった場合。
⇒妻帯者の場合、帰宅途中で食事をしたのち災害にあっても認められにくいようです。ですので、妻帯者はなるべく家で夕食をとりましょう。
③前日に飲み会等で遅くなり、友人宅に泊めてもらった場合。
⇒友人宅からの通勤途中で災害にあった場合は、認められません。友人宅は自宅とは認められないからです。帰りが遅くなってもなるべく自宅へ帰ったほうがよさそうです。
④会社に行こうと家の玄関を出て、門まで行く途中に転倒し骨折した場合
⇒家の玄関を出ているので通勤災害とも思えますが、門を出てからが通勤となるので「通勤災害」ではありません。ただ、マンションやアパートの場合には、部屋のドアを出た時からが通勤になります。
スポンサーリンク
関連記事
-
社会保険Q&A ~時間単位の有給休暇~
Q.年次有給休暇を時間単位で取得することが可能と言うことですが、どうすればよいのでしょうか。また、必
-
働き方と労働関係法令の適用の有無
社員以外にもいろいろな働き方があります。契約社員、派遣社員、パート・アルバイト等です。これらは、呼び
-
社会保険Q&A ~労働者の代表となれる者~
Q、就業規則や36協定を届ける際に労働者の代表が署名押印しているのですが、管理部の総務・経理担当者が
-
改正パートタイム労働法が施行されます【平成27年4月1日施行】
パートタイム労働者の公正な待遇を確保し、納得して働くことができるように改正パートタイム労働法が平成2
-
「時間外、休日及び深夜の割増賃金」についての考え方
使用者は、災害、公務、36協定を締結した場合等には、時間外、休日及び深夜労働をさせることができます。
-
有期労働契約から無期労働契約への転換/特例のポイント
労働契約法の改正に伴い、有期労働契約が通算で5年を超え反復更新された場合には、労働者の申込みにより、
-
代休と振替休日の違い
「代休」と「振替休日」は、どちらも本来は「休みである日に働いて、別の日に休みを取る」という意味では同